2.23.2017

家族写真

俺の空は残念ながら雨だ。
ようやく小淵沢にも雨が降るようになった。
季節の変わり目に人が体調を崩してリセットするように、天候も寒の戻りや冷たい雨を繰り返しながらわずかながらも気温が上がって春に向かっているのを感じる今日この頃。
あったかくなると山梨と長野の田んぼに人が帰ってくる。
実は、いい光や夕焼けに遭遇したらすぐに田んぼの脇道に突入して写真が撮れそうな場所を探すためにぼろぼろの軽トラに乗っていると言っても過言ではない。細い悪路でも突っ込んで行ける小型四駆車で汚れようが傷が付こうが気にならない長靴のような走破性に加えて、荷台が素晴らしいイントレにもなる。ただ隠れた性能は『よそ者ではないオーラ』だと思っている。丸見えの運転席から笑顔で軽く頭を下げると、腰が曲がったおばあちゃんがもっと腰を曲げておじぎをしてくれる。そんな瞬間、その人の人生や家族のことをふと妄想する。夕方おそくまで農作業をしたおばあちゃんを気遣うようにおじいちゃんが運転して帰っていく軽トラに並んだ二つの小さなシルエットに金色の夕日が当たっている様はとても美しく、もうそれだけでその人達の家族写真を撮ってみたくなる。

この時期は確定申告作成で、源泉徴収表や領収書に目を通すことで、ある意味正月よりも昨年のことを振り返ることになる。
ちょうど1年前に新商品バファリンEXのグラフィック撮影を担当させていただいたことを思い出した。布バックのセットを美術さんがきっちり作るのでカメラ・照明のセッティングのこともあってスチールはムービー終了後に撮影する流れだったので、一通り動画の撮影を拝見させていただきとても面白かった、世代を超えた様々な痛みに早く効くことを表現するためにそれぞれの痛みを抱えながら家族が立ち位置に入るという俳優の方々の生の演技を見て口を押さえて笑っていた。ムービー撮影が終わり、加速装置にスイッチを入れてアシスタント2名と一緒にストロボ・カメラ・モニターの準備を瞬時に行った。前日にスタンドインモデル5名で並びを確認していたそのままに同じモデルさん達で確認テストを撮ってから本番である。これだけの役者さんが揃えば、並びだけ確認してあとは黙ってシャッターを押すだけである。『めっちゃ具合悪いご家族の撮影拝見しました(笑)。最高でした。スチールは、めっちゃ!具合のいい家族写真でお願いします!』と初めに一言ご挨拶をして、最後に北大路さんに掟破りの『いいね!(サムアップ)』をお願いして楽しい家族写真で集合の撮影を終えた。写真館で撮る感じ、という超ストレートなディレクションにカメラマンとしてキャスティングされたことがとても嬉しかった仕事だったが、後日女性ADに『奇跡の撮影でした』という嬉しいお言葉をいただいて無事ミッションはクリアした。

家族写真におけるムラバックは、昔からなんとなく写真館等で使われている常套手段のように思われているが、あれは被写体の周りの時空を歪めて時間を経て見るときにタイムスリップするための触媒だと思っている。白バックや黒バックはもっとシンプルに被写体に特化した記憶再生装置だ。
忘れてはいけないのが、もし可能であれば第三者のプロに家族写真撮影を依頼するなら、是非、ふつ〜の食卓の食事風景という究極の環境ポートレートも一緒に撮ってもらうことをお勧めする。誰が食事を作るか?頻度はどのくらいか?に関わらず手間と時間と稼ぎを持ち寄ってお互いの顔を見ながら囲む食卓こそが家族の中心であると思う。その写真は間違いなくタイムマシンとしての写真の機能を果たすことになるだろう。家族で食べたお気に入りの料理を思い起こさせる写真なんて、何十年でも飛べるはずだ。

昨日の北八ヶ岳坪庭&ゲレンデ散策で一人ポケットにねじ込んでいたコンビニのおにぎり2個を食べながら、食卓から派生する愛情弁当を妄想して、食卓写真が気になったので朝コーヒーを飲みがらブログに記しておくことにした。

いつか『中山寫眞館』をやることになったら、この写真の全身バージョンを入り口に飾るとしよう。
出張ご家族写真のご用命はお気軽に中山までw
E-Mail nakayama1999@aol.com

バファリンEX HP




2.19.2017

俺の空

『人生はあみだくじだ。』と、思う。
そしてその生まれ落ちてからずっと繰り返してきた日々日常の選択という膨大なあみだくじの歪みのせいで、人は皆、やりきれない気持ちをどこかに抱えて生きているんだと思う。死ぬほどつらいことではないけども、すぐにはどうしようもないことが多い。酒を飲んで酔っ払って愚痴ったところでなかなか他人にうまく伝わるような類いのものでもないし、大抵は誰かに伝えようにも話が長くなりすぎる、、というよりも、そのあみだくじを経験した本人しか細かく正確なニュアンスはわからないかもしれない。

大学入学で九州・小倉から上京し、ろくに就職もしないでバブルの残り香を嗅ぎながら20代を過ごし30でカメラマンになり、どんなに胸を張るような仕事をしても何かうしろめたいことをしている気分にさせられるフィルム現像所の深夜金庫の鍵の開け閉めがなんとも嫌いでフィルムの引き取り・納品をしてくれる圏内の目黒区青葉台に科学特捜隊のようなコンクリートの家を建て、ベンツのワゴンに乗って、あみだくじの上を転がってきた。

生きるってのはほんとに不思議だ。自然界では生物は獲物を捕らえるため(カロリーを得るため)にカロリーを消費して傷つき老化していく。都会では、人は仕事が忙しいせいで運動不足になって時間を割いてジムやプールに通ったりして汗を流しながらそこの会費のために忙しく働き、美味しい料理とお酒でたるんだ体のためにもお金を使う。
?『人生はあみだくじだ』とは言ったものの、そもそも子孫を作るという行為以外は生きてること自体が選択うんぬんどころかおそろしく非効率であることに軽く驚いてしまう。
どうやらやりきれない気持ちは、時々笑って、ごまかしながら好き勝手にやっていくしかなさそうだw

『レギュラー満タン』『袋ください』くらいしか人と話をしない日もあってテレビもないおかげが、節分後に雲の様子が変わってきただけで嬉しくなるおっさんになってしまった。仕事の電話がかかってきても軽く日本語を忘れていて噛んだりするのは内緒だ。
流しに置いたグラスに氷が張っていても、冷え切った便座に座る度に心頭滅却しなければならなくても、52年のあみだくじの果てに手に入れたお気に入りの小淵沢の俺の空(部屋の窓)。
なんと俺史上、二十歳前に上京した時に初めて借りた風呂なし四畳半の次に安い家賃。
ふむふむ。。だいぶ、ふりだしに戻ったかもしれない。
『春よ来い。早く来い。』

(晩酌にて)

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2.10.2017

雪の華

前日からずっと雪が降ったり止んだりで、朝から灰色の空で山も全く見えない状況なので今日は出かけないつもりで掃除洗濯をしつつ、のんびり作業をしていた。昼間に小淵沢のアジトで写真の調整作業をするときは、モニターに映りこみが見えるのが大嫌いなので真っ黒の遮光カーテンをしている。夕方4時前に、夕陽の状況を見ようと思いカーテンを開けると、ふわふわの真綿のような雪が景色も霞むほど、しんしんと、という音さえも吸い込むように降っていた。いつも風が吹いている小淵沢でほぼ垂直に静かに降っているのが奇跡のように思えて、すぐさまカメラをもって外に飛び出した。風さえなければビニール傘を左手にコンパクトカメラを右手に持てば、雪も雨も恐れることはない。迷わず近所のフィオーレ小淵沢に向かった。
ビニール傘を動かす度にカサカサと音を立てて滑り落ちる牡丹雪は、桜の細い枝にもまとわりつき、空いっぱいに舞い散る桜吹雪きのようでもあった。空は暗くなり始めて閉園の時間は気になったが、こんな雪の降り方は一期一会かもしれないと夢中で撮りまくった。案の定、4時半すぎに帰ろうとしたら、平城(ひらじろ)の門扉のような屈強な入口の扉があっさり閉じられていて少し焦ったが、門に設けられたくぐり戸の鍵は開けられていた。

夜はいつも台風のような八ヶ岳から吹き下ろす風で、サッシがすごい音を立てて寒さがつのるので早々に布団に潜り込むが、今夜はとても静かな雪のおかげでむしろ温かいせいもあり、つい夜更かしをしてしまった。
撮りたての雪の写真を見ながらのMichel PolnareffのLe Bal Des Lazeが最高に気持ち良かったからよしとしよう。

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SIGMA DP3 Merrill
























2.06.2017

霧ヶ峰ビーナスライン

白樺湖から霧ヶ峰湿原までの霧ヶ峰ビーナスラインは、よほどの悪天候でない限り、山好き・ドライブ好きでなくとも誰もが納得する素晴らしい景色を楽しむことができるだろう。
道すがらの車止めには迷うことなく頻繁に車を入れてそれぞれの場所から景色を満喫することをお勧めする。一番大きな富士見台駐車場からは八ヶ岳・富士山・南アルプス・中央アルプス・北アルプスが一望できる。簡単な食事も出来る売店もあるし車の中からゆっくり景色を眺めるのもいい。駐車場で写真を撮っていると、あとから来た車から降りてくる老若男女からかなりの確率で『うわ〜すごい...』という声が聞こえてくるのもなんだかとても平和な時間を共有している感じがして、気持ちのいい日に少し足を伸ばしたくなるお気に入りの場所だ。
コース途中に車山高原スキー場があるおかげで、冬季にスタッドレスタイヤは必要だが通年のアクセスも可能だ。
もし時間に余裕があるなら、昼間に富士見台駐車場で景色を楽しんだら、そのすぐ先の霧ヶ峰湿原駐車場まで車を走らせて、湿原散歩も是非。まだ冬場しか行ったことはないが、山の北側ということで美しい氷の世界が広がっている。遠くに北アルプスを望む広大な雪原はまるで別の惑星に来たような気分にさせてくれる。そして日が傾いてきたら再び富士見台駐車場に戻ってオレンジ色に染まり始める山々を眺めれば一粒で二度美味しい。
きっと季節が変われば、さらに変化に富んだ景色が迎えてくれるだろう。とても楽しみだ。

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SIGMA sd Quattro 24~105/f4