先月のお盆の直後、釜石に行った。
雑誌Numberの指令は、釜石シーウェィブスの面々と奇跡の大漁旗の集合写真である。
被災地の実景もあったほうがいいということで、
地元の方の案内で大槌町のほうまで足を伸ばすことが出来た。
編集部の許可もいただいたので被災地の写真を掲載する。
往路は新幹線で新花巻で在来線の釜石線に乗り換え。
森山大道さんの東野物語にも登場する路線である。
どんな風情か、楽しみにしていたが電車はばりばりの新型だった。
ただ、車窓に切り取られる雄大な東北の山々は緑の美しさもあって大変素晴らしいものだった。
車で行くのもいいが、この電車の眺めを見るためだけに電車に乗るのもありだと思う。
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新花巻駅のホームからiPhone |
釜石港には巨大なタンカーが打ち上げられ、町全体に津波の凄まじい傷跡が残っていた。
トラックや重機がちらほらと復旧作業にあたっていたが、
半年経ってなお道路以外は惨憺たる状況で、人手不足、停滞する政治、予算不足、
新たな街づくりの計画がまだまだであることをひしひしと感じる。
大槌町方面では、信じられないような内陸まで津波の爪あとが残っていて、
あらためて津波の高さを実感した。
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いたることろに海水らしき水溜りが残っていた |
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こんなところが?と思えるような内地の建物も
2階まで津波にのまれていた |
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大槌町の役場ごと壊滅的な被害を受けていた。 |
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家のすぐ裏が山なのに根こそぎ流されてしまった家に
置かれた車椅子とお供え物 |
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山の斜面の墓地も津波にのまれて
ほとんどの墓石が倒壊していた |
途中、車内で地元の方の携帯電話がぎゅいんぎゅいんといやな音を響かせた。
震度5弱の地震は、車の中ではそれほど感じなかったが、
ハンドルを握る地元の方は、海岸線と平行に走る道路から
すぐさま山に登っていく坂道に向けてハンドルを切った。
直接あの津波を経験された方が、何も言わずに間髪をいれずその行動をとったことが
津波の怖さをストレートに感じさせることとなった。
幸いなことに、大きな津波は来なかったが、高台にある親類の家の庭でしばらく様子をみた。
山の中を走っていたら、鹿が挨拶をしてくれた。
東北とは、食うほど鹿がいる場所でもある。
彼らや東北の神々は、いったいどんな思いで津波を見たのであろうか?
そして、海のちかくの山々のふもとまで大きな船が流されていた。
宿泊したのは、普通の有名なビジネスホテルチェーンだったが、
街ごと2階まで津波にのまれた影響で空調施設が使えなくなっていて、
寝苦しいのを心配していたが、お盆であるにもかかわらず、
少し肌寒いほどで、ぐっすり眠ることができた。
初日は曇りだったこともあり、美しい朝日がでることを祈って朝5時に目覚ましをかけたが、
残念なことに空は濃いグレーだった。
カメラがデジタルになって、いいこともある。
フィルム時代は、想定されるカット用にフィルムを用意してロケに向かうために
フィルムの感度や種類・量もあまり余裕が無いことが多かったが、
デジタルであればフィルムの残数も気にすることなく、
その気にさえなれば、好きなだけ撮る事が可能である。
歩いてすぐのところに巨大なタンカーが打ち上げられていれば、
少し眠くても出かけないわけにはいかなかった。
三脚に35ミリをつけたハッセルHを載せてホテルを出た。
そしてまだ薄暗い商店街ですれ違いざま、犬の散歩をしている老人に
タンカーはどっちに行けばいいか尋ねた。
もちろん方向はわかっているが、こういう時に入手する情報が
案外撮影に役立ったりするのである。
老人は一瞬「?」ときょとんとした後
「あ~~ヤマトけ。。あっちだ~」
ヤマト??軽くお礼をしながら寝ぼけた頭で、
老人も多分、寝ぼけてるんだろうなどと思いながら港に向かった。
道すがら破壊された商店街を覗きながら歩いていると、
食料品店らしき店の中から真っ黒いカラス20羽くらいが
ものすごい羽音を立てながら、ぶつかるんじゃないかと思えるほど目の前を
飛び立っていった。
どうやら、カラス達の格好の餌場になっているようだった。
そのまま入り口に三脚を据えて一枚撮った。
三脚の高さを調整しようとして、足元を見た瞬間すこし固まってしまった。
あきらかに人間が食べた後と思えるような黄色いからしを溶いたたれが入った
プラスチックの小皿が地面に転がっていた。
誰もいない港の魚市場は、満潮で地震により地盤が下がったために浸水していた。
水溜りは浅ければ浅いほど静かな鏡面となる。
一瞬、煙草に火を付けようと思ったが、何があるかわからない状況なので我慢した。
作業の車もいないので、タンカーを正面から狙うことにした。
そびえ立つタンカーを目の前にして、さきほどの老人の言葉の意味がわかった。
宇宙戦艦ヤマトである。
本来の戦艦大和は鼻先は赤かったのかどうかはわからないが、
まぎれもなく、アニメの宇宙戦艦ヤマトを思い起こさせる。
波動砲はついていないこのヤマトももうじき撤去されるようである。
今回のメインミッションである集合写真は、是非誌面にてご覧頂きたい。
汗を感じる写真にしたかったので、ハードな練習の後に無理を言って撮らせて頂いた。
完全に日が落ちる時間帯だったので、バッテリー式のストロボ一台二灯を用意した。
ほんとうはトップライトも入れたいところだったが、
撮影場所を決めて一人でのセッティングだと選手達の体が冷えてしまう。
鉄と魚とラグビーの町・釜石の鉄人達のいい写真を撮ることが出来た。
現場で連発する駄洒落はけっこう痛いが、ベテラン松瀬学さんの文章も素晴らしい。
淡々とした流れゆえに目頭があつくなる。
是非、お一人で静かに読んで頂きたい。
買うべし!
Number787号、本日発売