先日、いつもの公園で久しぶりに蝉の顔でも撮ろうかと昼食後に行ってみたら、
ビギナーズラックともいえるショットをものに出来た。
せみの大きさになると斜めから抜くとどうしても片目にしかピントがこなくて
迫力に欠けることは想定できたので、
どうしても正面で顔のアップを狙いたかった。
かなりの蝉に一瞬で逃げられたがこいつだけは大人しく撮らせてくれた。
やりゃできるじゃねえかという気分で、羽化したての黄緑の蝉の顔を狙うつもりで、
夜中の公園に行ってきた。
生命の輝くような美しい顔と体を撮ろうと意気込んで向かったが、
公園に一歩足を踏み入れた瞬間から何か昼間とはまったく違う
おどろおどろしい雰囲気にぞっとした。
昼間は騒がしく鳴いている蝉の声はなく、ときおり闇夜のからすのような、
「ジジッ」という不気味な蝉の鳴き声が聞こえる。
そして、わたしの気配を察知して蝉達がばたばたと飛びたつ。
公園の真ん中にある大木の根元には、蝉の幼虫が出てきたと思われる
1センチほどの穴が無数に空いているのを確認していたので、
そのあたりをLEDの小さなライトで照らしてみた。
すぐにもぞもぞとうごく蝉の幼虫を2匹発見した。
しかし、彼らは黒い小さな物体の集中攻撃を受けて
羽化するどころか、断末魔の叫びをあげるようにかすかに手足を動かしていただけだった。
何年も地中で暮らし、最後の夏に地上に這い上がり、
真夏の夢を見るようにすがすがしい気分で木に登って殻を破り、
羽を伸ばし、空を舞い、大きな声で叫んで一生を終えるなどと、
おとぎ話のようなイメージしか持っていなかったが、
現実は、とんでもなく過酷な弱肉強食の世界が繰り広げられていた。
おそらく、穴から出てきて、なにかのトラブルで動きが遅くなった瞬間に
蟻達にとりつかれて、みるみるうちに体中の隙間から致命的な攻撃を加えられ、
餌食になってしまっているようだった。
昼間のこの公園は何度も行っているが、抜け殻でない幼虫の亡骸は見たことがない。
おそらく、蟻達は狙った幼虫を、一夜のうちに解体して
地中の巣に持ち込んでいるからだと思われる。
あたりまえのように無数に木に残っている蝉の抜け殻も、騒がしく鳴く蝉達も、
そんな蟻の攻撃や様々な困難を乗り越えて存在していた奇跡に衝撃を覚えた。
そもそも生き物は精子のころから、優秀なものだけが生き残るというシステムはあるわけだが、
モデルになってくれている虫達も、そんな過酷な生存競争を生き延びて存在しているという
当たり前のことを強く認識することになった。
のんきに感動して、ろくな鎧も持たない人間には、
昼間は比べ物にならない程の藪蚊が血を吸うために集まってくる。
蚊の攻撃に備えをして、夜の公園という状況であるので出来れば複数で
夜の公園の身近な虫達のもうひとつの世界を是非確かめて欲しいと思う終戦記念日。
おそらく天寿をまっとうして、木から落ちた油蝉が、
砂の上で最後の力をふりしぼって身構えていた。
彼はこの目でどんな世界を見て、どんな一生だったのだろうか・・
きっと我々には想像も付かないようなことばかりだったに違いない。