12.31.2017

大晦日2017

小淵沢アジトでの暮らしも一年がすぎた。当初、泣きそうだった寒さも、経験と慣れでなんとかしのげるようになってきた。大晦日、いつもこの日はなぜか一年を通じて社会に対してぼんやり感じていたことがいろいろと頭をよぎる。
つい先月、小淵沢IC出口脇にあったスーパーマーケットのヤマトが倒産した。23時まで営業していたおかげで東京と山梨を行ったり来たりする一人暮らしの独身には心強い味方だったが、突然入り口に貼られた弁護士の冷たい文言が書かれたA4一枚の紙越しの薄暗い店内にそのまま野菜が山積みにされている光景はとても悲しいものだった。小淵沢には新しく改装されたJRの駅はあってもスーパーらしいお店は他になく、もはやインフラとも思えるレベルだった。誰が考えても地域住民や卸売業者への影響はとても大きなものだったはずなのに、あっさりと消滅してしまった。おかげで買い物は時間とガソリン代をかけて隣の街まで出かけなければいけなくなってしまった。現実はなかなか『陸王』のようにはいかないようだ。銀行や政治の力はほんとうに及ばなかったんだろうか。。
先日、将棋電王戦でAIが人間に勝利する番組を見た。なんとそのAIはすでにプロ棋士の戦いを数千年分繰り返しているらしい。知の経験が力となる分野においては、もはやジェダイですら敵うことはないのかもしれない。資本主義を支える株式取引にもすでに大手の証券会社はAIを導入していてすでに人工知能の性能比べになっている感は否めない。もはや個人のトレーダーが手動でマネーゲームをする時代も終わりだろう。
AIが進化することで、おそらく多くの局面でロボットを使って人間の労働とその喜びを奪うことになるだろう。いままで個人が享受してきた労働には対価があったわけで、それをマクロで吸い上げる関連企業がますます力を得ることになるだろう。資本主義とは基本的に格差を生み出す構造であるのは仕方のないことだが、個人の小さな営みにおける喜びまで奪うものであってはならないと思う。一部の企業に属する人間以外がすべて消費者になってしまう世の中に向かう超格差的資本主義ならば、今のうちに早く捨ててしまうべきだ。
とはいえ、目に見えない大きな力が働いているのは、きっといつの時代も同じだったのかもしれない。結局『愉しく生きる』しかないとの思いに至るのも大晦日だ。

『中山達也写真店』に並べた写真からの『富嶽三十六景2017』
続々と新作が入荷します。お時間あるときにお立ち寄りください。

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二十八歳で飛び込んだ写真の世界もすでに二十五年が経過した。
元気に走れるうちに少し減速して愉しく折り返す時だ。

みなさま、どうぞよいお年を!!

12.15.2017

北千里浜@九州・九重

山梨に住んで時間があれば山を走り回っているにもかかわらず、忘れた頃に夢の中に出てくる不思議な山の景色があった。草木も無い岩だらけの山々とその谷間の大きな岩が転がる道だ。どこの国なのかもわからないような不思議な記憶だ。ふとしたきっかけでどうやら子供の頃に兄がバイトをしていた故郷・九州の九重法華院温泉山荘に行った時の記憶であることがわかった。ネットで探しあてた目的地『北千里浜』を目指す相棒は、もちろん悪友の幼馴染同級生画家・田口順二だ。車での長者原ビジターセンターまでの往路に、小倉駅の裏で止まっているところを観光バスに接触されておっさん二人で言葉を失うというハプニングのおかげで日没と同時に山小屋に到着した。窓越しに輝く明るい月の光で温泉につかり、襖一枚越しに耳に飛び込んでくる山マダム達の深夜3時頃まで続いたおしゃべりに怒鳴る気持ちを抑えながらの山小屋泊となった。早朝は雲に覆われていたが日が高くなるとともに空は晴れ渡った。いやなことがあればいいことは必ずあるものだ。山荘の間を抜けて裏山を登りきったところで、記憶の片隅にあった岩山が姿を現した。同時にふっと鼻の奥に感じた硫黄の匂いが岩にマークされた黄色の道しるべと繋がってもう一つの記憶が蘇った。約40年前は九重全体が硫黄の匂いがとてもきつくて、この黄色い道しるべのペイントは溢れ出る硫黄で描いていると思い込んでいたことだ。近年は硫黄の匂いが減ったせいか草が生えるようになったらしい。視覚と嗅覚と記憶が活性化されて、息を切らしていたことなど吹っ飛んでしまった。最近ギャラリー気分で始めた『中山達也写真店』にこの原風景ともいえる山の写真を並べておきたかった。約30分、この広い『北千里浜』を走り回って撮影した。相棒の同級生画家も絵の具を取り出し飲んでいたミネラルウォーターで溶かしながらあっというまにスケッチを描きあげてじっとその絵を見ていた。
水を含んだ黒い火山灰がぬるぬるの粘土となって靴のソールに張り付き何度か尻もちをつきながらもなんとか下山、小倉に戻り同級生達とまる二日間飲む酒はなんともたまらずうまかったのは言うまでもない。

いつも眺めている南アルプスを上空から見るために今回は飛行機で九州入りして、帰りは京都に立ち寄った。さっそく写真店に並べたので、お時間ある時に、ぜひ!

中山達也写真店