1998年、今村監督の写真を撮らせて頂いた。
前年に「うなぎ」でカンヌのパルムドールを受賞していた監督は、
杖をついて関係者に支えられて、摺り足ですこしづつ歩きながら部屋に入られた。
正直、それほどまで足が悪いとは思っていなかったし、
このコンディションで映画の監督をされているというのに驚いた。
監督の写真を撮りにきましたと挨拶をすると、
体の動きとは全然別の人格のような笑顔で
「このとおり動けないぞ」
「全然、大丈夫です。一番楽な姿勢でいて下さい」
するととなりにあった椅子をずらして足をのっけた。
みるからにやんちゃな小僧のような笑顔でタバコをずっと吸っていた。
がんこそうに振舞ってはいるものの、
写真を撮りにきたあんちゃんに最大限のサービスをしてくれていると感じた。
こういうときは、下心をだして余計な事をしてはいけない。
この状況をそのまま押さえることも写真の役割だと思う。
「復讐するは我にあり」や「楢山節行」などで、
人間の業や欲のようなものに正面から向かっていく作風がとても好きで
一見、やぼったくみえてしまうシーンもあるのだが、
それすらも人間なんて所詮こんなもんなんや、と強く語りかけてくれているようで、、、
日本人の倫理観や人生に対する考え方をひしひしと銀幕から
伝えてくれる素晴らしい映画監督だと思っている。
「黒い雨」で主演をつとめた田中好子さんが亡くなってしまった。
先月、田舎で中学の同窓生達を撮影した夜に、
幼馴染の女性たちによるキャンディーズのメドレーカラオケを
楽しんだばかりだったこともあり、、、、、とてもショックである。
「必ず天国で被災された方のお役に立ちたい」
という命をかけた肉声を残したスーちゃんの思いを
私達は忘れてはならない。
恐怖を煽るなどという風評をおそれるテレビ局が
「黒い雨」を放送することは、しばらく無いだろう。
世界の基準を大幅に上回る放射能にさらされて学校に通っている子供達が大勢いる。
大人の事情で、子供達を放射能にさらし続けるようなことがあってはならないと思う。
御家族の苦悩は計り知れない。
日本がいま、大人の事情でめちゃくちゃになっているからこそ、
子供の事情をもっとも大切に考えなければいけない。
福島県の小学校教員の訴え
Fukushima: Nuclear Blast at Reactor 3?
(きのこ雲の再来なのか?・・・)
今村昌平さんと田中好子さんの命をかけたメッセージとして
映画「黒い雨」を見ようと思う。
合掌
Hasselblad 150mm トライX