6.03.2014

笑宮

20年のカメラマンの仕事の中で、最も多く時間を共有した編集のIさんから、
今年の始めに娘さんの成人式の写真を自宅で撮って欲しいと頼まれた。
のべ数百日も同じ宿に泊まり、数えきれない程世界中の飲み屋で
酒を酌み交わした方のお願いをお断りする理由などどこにも無かった。

Iさんの自宅で、庭と室内にバックペーパーを垂らして、
Iさんのご近所仲間の同じく成人式を向かえる娘さんや、
中学に入学する男子、そして重病を克服されたばかりの舞踊の先生の写真等、
御家族、グループ写真を、最も信頼するハッセルH3DⅡ-39で撮影した。

『笑宮』は、Iさんの企画で作成したそれぞれの記念アルバムの別冊であり、
ご近所付き合いの歴史と撮影日を網羅したアルバムに、
お住まいの地名をもじって名付けたタイトルである。

先週末に、娘さんが帰省され、皆さんが集まるチャンスということもあり、
Iさんとオンデマンド印刷で写真集達を一気に作り上げた。
Iさんがインタビューした内容も盛り込まれ、
御家族・本人の歴史を総括した素晴らしいアルバム達となった。
約5ヶ月間の制作のやり取りの中で、始めに決まったのが
成人を向かえる二人の娘さんの笑顔を『笑宮』の表一にすることで、
それは以後揺らぐ事はなかった。
みんなで集まり、美味しいシャンパンを飲みながら、
もったいぶってIさんがそれぞれに手渡した写真集を見るみんなの顔は
笑顔に包まれていた。
記念写真という記録が、みんなの手元にしっかりとした形となり、
記憶として定着された瞬間だった。

カメラマンとしての独立後の20年が、成人式という20歳を祝う二人の笑顔に
結実した気がした。
写真における笑顔は非常に扱いが難しい気がしていて、
作品撮りなどでは笑顔の見え方にはとても気をつかっているが、
実は笑顔を撮ることが大好きだったことを思い出すことにもなった。
愛娘の大切な日の笑顔カメラマンとして、そして身近なる人々を撮る為に、
Iさんが私をキャスティングしたことがたまらなく嬉しかった。
Iさん、こんな素敵なチャンスを頂いてほんとうにありがとうございました。
美味しいお酒もたくさんごちそうさまでした。

現在製作中の自身の20年を総括した120ページにも及ぶ
ポートフォリオの最後のページは迷う事無く二人の笑顔の写真に決めた。

そして、スーパーモデルの御二人へ
『さんきゅうふぉゆあすまいる! 幸、多かれ!』