1997年、ダイアナ妃が不慮の死を遂げてしまった。
オルソープに埋葬されたニュースを見て、
悪友二人と一緒に献花をするためにイギリスに渡った。
ヒースローからエジンバラ行きへの乗り換えで、
ぎりぎりで駆け込んで始まった
イギリス中をめぐる、いい年こいたまぶだち3人衆のレンタカーでの旅は、
一生忘れられないものとなった。
夜の10時過ぎにセントアンドリュースに到着して、
宿代が20万にもかかわらず、ただ飲んで寝るだけだった初日にはじまり、
ゴルフでは数十個のボールをロストしたり、
スコットランド中の古城を見て回り、
ストーンヘンジで居眠りをして二日酔いをさましたり、
カロデン古戦場の博物館で音声ガイダンスに日本語があって
妙に歴史の勉強になったり、
ドーバー海峡で郷ひろみのカセットをかけながら黄昏れたり、
BBの窓から裸でお尻を並べて写真を撮ったり、
ハーマジェスティの幕間にクリュグを抜いて、
怪人のマスクをしままま「オペラ座の怪人」を見たり、
ロンドンのクラブでギャルと盛り上がったり、
ビックベンの真下のベンチで警察がくるかどうか賭けて朝まで飲んだり、
リバプールでビートルズのカラオケをしようとしたが
お店がやってなくてマクドナルドを食べたり、
ドーバー海峡が車で走って渡れると勘違いしてて、
列車に積み込まれる寸前で引き返したり、
ボンドストリートで駐禁のチケットを切られたり。。。。
無事、オルソープのスペンサー家の門の前に献花をして、
自作のポストカードにメッセージを残してきた。
そんなことや、あんなこと、、
思い出したらきりがない珍道中で、
一番不思議な記憶が残っているのが、ネス湖のほとりで宿泊したBBである。
宿はロンドン以外は、いきあたりばったりだったが、
さすがにネス湖畔のそばに泊まろうということで、
湖のまわりを流して、あるBBを探し当てた。
見逃してしまいそうな看板をたよりに細い道を入っていくと、
庭にとても小さなスチールのモーターホームが置いてある
2階建てのBBがあった。
車を降りて、様子を見ていると
20歳前と思えるかわいい女性が家から出てきた。
決まり、である。
男3人の旅において、最優先される条件が真っ先に提示されてしまい、
男同士顔を見合わせて確認するまでもなかった。
建物は決して新しくないが、部屋はこじんまりとしていて十分だった。
世間では、よく日本人の住んでる家が小さいとか言われるが
ぶっちゃけ海外の普通の民家は、
そんなに大きな部屋だと思う事はあまり無い。
むしろ、欧米人の体の大きさを考えると、
日本人よりも体感的には部屋は小さいんじゃないかと思うこともある。
ほかにお客がいないこともあり、
貸し切りの2階で3人それぞれの部屋のドアを開けっ放しで
ゆっくりさせて頂いた。
少し古いと、不気味さを感じてしまうイギリスの田舎の建物だが
ここの部屋の壁紙は、少しポップでとても落ち着いたのを憶えている。
ネス湖の古城を散策して、お約束でネッシーを探して、
近くのレストランで夕食を済ませてBBに戻り、3人で酒を飲んだ。
窓の外には、月が映ったネス湖のきらめき。。最高である。
ただ、、、親父さんと二人しかいないというこの家の
庭のモーターホームの小さな窓もオレンジ色に光っていた。
どう考えても家の方には我々以外の人がいる気配は無い。
ということは、、その小さなスチール製のモーターホームの中に
親父さんと年頃の娘さんが二人で休んでいるのである。。
ありえない。。
あんなことや、こんなことを日本語で酒の肴にして夜は更けた。
始めしかお湯がちゃんと出ないことが分かっているので、
ジャンケンで順番を決めてシャワーを浴びて、
小さな天窓の月明かりを見ながら床についた。
どこに行ってもあまり寝付きのよくない私が、
ようやくうとうとし始めた頃、、、
ドップラー効果満点のすさまじい爆音がした。
3人とも、飛び起きた。
どう考えてもジェット戦闘機がネス湖の上を飛び去った音だった。
翌朝、シンプルなモーニングを用意してくれた彼女に爆音のことを訊ねると、
イギリス空軍が時々、ネス湖の上をぎりぎりで飛ぶらしいということだった。
世の中、いろんな不思議なことがあるものである。
オリーブドラブの長靴を履いた後ろ姿だけしか見れなかった
親父さんのことを突っ込むような無粋なことはせずに、
犬と遊んで、飼っている羊を見せてもらい、ハッセルで彼女の写真を頂いて、
イギリス最北端のジョノグローツ目指して宿を出た。
どこを走っても車のCMに使えそうなランドスケープを飛ばして、
ジョノグローツの美しい岬にそびえる白い灯台で一服した。
「The End Of The Road」という看板を折り返し、
なぜか男3人、、暗黙の了解で彼女のBBにもう一度戻るルートをとっていた。
BBに戻ると、彼女はお茶を入れてくれた。
我々男3人は、なぜか嬉しそうに
「ジョノグローツ、行ってきたよ!すごくいいところだねっ!」
彼女は寂しそうに、答えた。
「私、まだ、そこ、、行った事がないの。。。。。」
「(え〜〜〜?!!!!)・・・・ 」
約200キロ離れた場所とはいえ、
年頃の彼女がそこに行った事がないというのは、
とても不思議だった。。
頭の中で、明かりの点いたモーターホームがちらちらしたが、
他人の家庭の事をあれこれ詮索するのは失礼である。
もちろんアジア人の車に乗ってくる事は無かっただろうが、
彼女をジョノグローツまでのドライブに
誘ってあげなかった事を、3人で車に戻って後悔した。
そして、、その夜は、ネス湖畔の別のBBに泊まった。
あれから14年、彼女はどんな人生を送っているんだろう。。
もしネス湖を再び訪れる機会があったら、
この写真を手渡したいと願っている。
Hasselblad 80mm ネガ ポートラペーパー