2.16.2011

Michael Jordan

1996年、マイケルジョーダンさんが初来日した。
雑誌ポパイが特集を組むということで打ち合わせをしたが、
さすがにスタジオで個別に取材に応じて頂けないようで、
イベントと記者会見の撮影に臨むことになった。

横浜アリーナで開催された「Nike Hoop Heroes」というイベントには
すごい数のカメラマンが集結していた。
バスケットボールの神様の初来日ともなれば、当然である。
当時メンズクラブの連載で
スタジオでアスリートを度々撮影していたこともあり、
スタジオでマイケルジョーダンさんを撮れないのがとても悔しかったが、
彼程の大物になれば、そうたやすく雑誌の個別の取材に
応じる訳にもいかないのも、納得である。

少し早い時間に会場に入り、エキシビジョンが行われる
バスケットボールのコートを下見した。
大砲のような望遠レンズが無数に彼に向けられて
ものすごい枚数の写真が撮影されることは明らかだった。
なんとか、他のカメラマンが撮る絵と
違うようなものが撮れないか考えた。
もちろん彼が写っているだけで、それはそれで素晴らしいが、
私自身としては、中途半端に背景に他の選手が写り込んだり、
コートの反対側の観客等が後ろでぼけているような写真にはしたくなかった。
もちろん仕事としていろんな状況の写真は撮るにしても、
なんとかシンプルなポートレート的なものを狙っていた。

ふと目についたのが、大きなスタンドに乗せられたスポットライトだった。
主役の入場する時には、
会場のライトが落とされてスポットライトだけになることを確信した。
念のために会場の整理をしているスタッフに確認したら、思った通りだった。

400ミリのレンズを構えて会場が暗転するのを待った。
おそらく会場に入った彼はスポットライトを受けながらドリブルをして、
調子がよければ空中を舞うはずである。
こういう撮影、特にスポーツ関係においては、
どこから狙うのかも含めて、
目の前で起こることを予測するのもとても重要になる。
ファインダーの中で獲物を狙うことも大切だが、
カメラを構える前の経験と知識と情報もとても大事なのである。

新しいフィルムを装填して、自分の中でのメインカットに備えた。
会場が真っ暗になり観客の騒ぐ声とともに
スポットライトでバスケットボールの神様が浮かび上がった。
彼はドリブルをしながら走り出した。
だいたい、こういうのは時間的には一瞬である事が多い。。
夢中でシャッターを切った。
シュートの姿勢で空中に浮かんでからは、
足からなにか出てるんじゃないかと思えるような
優雅さと滞空時間の長さを感じた。
エアーというニックネームの由来を思い知った。
跳躍力のある動物が足が細いのと通ずるように
神秘的に足が細かった。

スポットライトだけで撮影した黒バックの写真を
ブックに納めることができた。
その写真は紙面を飾ることは無かったが、
仕事においてはお気に入りのものが
採用されないこともよくあることである。

 「ジョーダン、スタジオでよく撮れましたね!」
と、時々聞かれたが、、
実はそういうからくりなのである。

今時であれば、デジタル処理で背景を黒くしたり、
スタジオで撮影したように加工することも可能だとは思うが、
これ以外で、真っ黒の背景に浮かび上がる彼のライブの写真は見た事がない。

Canon Eos1N 400mm ポジ