1980年、中途半端な進学校の小倉高校に入学した。
高校時代にどんな生活をしていたか、あまり記憶がない。
一つだけ、しっかりと憶えていることがある。
あまり他人には話したことはないが、
大藪春彦の小説にどっぷりはまっていた。
そして、それを原作にした角川映画にかなり心酔していた時期だった。
汚れた英雄の北野晶夫になりたいと真剣に思っていた。
こいつのせいで、高2の夏休みにこっそり中型二輪の免許を取り、
魔人のようにコーナーを駆け抜けるような走りは出来なかったが、
なんとか小倉という田舎を抜け出して東京に行きたいと思ったのは、
ここだけの話、北野晶夫のせいだったかもしれない。
どういうわけか、高校時代に英語の通知表の評価が全て5だったおかげで、
学習院大学の推薦を受けて入学した。
北野晶夫の部屋のイメージが深く脳に突き刺さっていたせいで、
大学に入ったら、射撃部に入ってそこそこの成績を積み重ねながら
全国から集まったお金持ちのお嬢様達相手にスキャンダラスな恋の狩人になるはずだった。
ちなみに中山少年の妄想の中では、
壁に埋め込まれた大型の金庫には射撃用の黒光りするライフル銃が並び、
金属製の丈夫な作業台には銃のメンテナンス用の道具が無造作に置かれている。
ガレージには、最新式のイタリアンバイク数台とBMWのALPINA。
冷たいシャワーと火傷するほど熱いシャワーを交互に浴びた後には、
もちろんベッドで、美しい女性が待っている。
ようするに、、、、
汚れた英雄の北野晶夫と、蘇る金狼の朝倉哲也と、野獣死すべしの伊達邦彦が
合体していた。
そんな汚れた英雄になりきっていた中山少年は
意気揚々と学習院大学の桜舞い散る新入生歓迎のキャンパスを横目に見ながら、
射撃部の部室にまっすぐ向かった。
しかし、なぜかその部室には誰もいなかった・・・
神様、最大のいじわるである。
しかたなく、無意識にキャンパスを彷徨っていうちに、
素敵な先輩女子に取り囲まれて半ば拉致されたように
観光事業研究部という、ま、わかりやすく言うと大学生同士で
スキーツアーをやるような、一見してかなりミーハーなクラブに入部してしまった。
つまり、高校時代からずっと大切にしていたハードボイルドな夢が、
この瞬間に、こなごなに砕けて蒸発しまったというわけだった。
大学時代に北野晶夫と同じ平レプリカのヘルメットを二つ買った。
一つは当時付き合っていた高校生の彼女用だった。
その娘も、大学生になって早稲田大学の医者の息子に持ってかれてしまった。
ああ、青春・・・
| ちょうど30年前に購入した ハードボイルドのしょっぱい記憶 既に内側のウレタンは 加水分解でまったく残っていない。 iPhone4 |