1.14.2012

愛しのハニーⅡ

愛しのハニーがいなくなって今日でちょうど一年が経った。
きっと、どこかで美味しいものを食べて、
太った体をもてあましながらちょろちょろと走り回り、
くいかかってくる犬達にも、噛まれることも厭わずに
のそのそ近づいて友達を増やしているに違いない。
線香を上げながら、昔のHDを繋いでiMovieで動画を作った。
正月に実家で親父と一緒に行った旧満州のポジを投射して見たり、
古い8ミリ映写機を引っ張りだして見ることを考えれば、
ほんとうに便利な時代になったものである。



しばらくは、飲みに行くのもサングラスを用意するほどに
最愛の愛人の喪失感は大きなものだったが、
3月に震災があり、放射能が関東にも飛んでくるようになって、
きっと、あいつはそんなことも予見していたのかもしれないとさえ思う。

先週、もう一匹のレディの首のしこりが悪性であるという診断をもらってしまった。
大型犬で子宮を摘出していない老犬が、いくら悪性の腫瘍の発生率が高いといわれても、
散歩のたびに、いかにも放射能が溜まっていそうな植え込みや道路わきに
鼻を近づけてくんくんしているわけで、どうにもこうにも気色が悪い。
もちろん悪性の腫瘍が、原発由来の放射能が原因だとは、
現在の科学では判断できないことはわかっているが、
チェルノブイリで4~5年後に急増したといわれる甲状腺をはじめとする健康被害が
人々を襲うような時代になったとき、東日本、そして日本はいったいどんなことになってしまうのか。

レディを精密検査のために成城の動物病院に預けて、駅ビルの蕎麦屋に入った。
テナントビルの飲食店なわりには、店舗敷地の半分ほどにしか客席を作っていなかった。
つまりは、贅沢なのである。思ったとおり蕎麦が高い。
若い客は一人もいない店内で、大人しく鴨せいろを食べていたら
後ろのお客さんの会話が耳に入った。
ロマンスグレーで綺麗にカールをしたグランドマザーと小奇麗な奥様の二人だった。
神妙な顔をして奥様がなにやらグランドマザーに相談をしているようだった。
「だったら、旦那の精子を冷凍して好きな時に子供を作ればいいじゃない。
知り合いの娘さんは、年子を作ったっていってたわよ(笑)」
恐ろしい・・
犬の死を意識して神経質になっているところに、これである。
「ああ、、蕎麦屋失敗だった・・・」
自分は子供はいないので、あまりえらそうな事は言いたくないが
男が身に覚えの無いところで、実の子供が身篭られてしまうということが、
普通の駅前の蕎麦屋で、普通のおばちゃんに語られていることに、ぞっとした。

パソコンを開いて、すこし弄るだけであっという間に
動画が出来てしまう便利な時代にはなったかもしれないが、
同時に、放射能がふりそそぎ、やってないのに子供が出来てしまうような世の中なのである。

地震が繰り返し発生する福島の4号機は、どこからみてもいつ壊れてもおかしくない風体であるが
実は最上階に原発2機分の燃料が水に浸かってるだけで存在している。
関東の下水からゴジラやガメラが出てきて、東北の山からモスラが飛び立っても
我々は大して驚かないほど、放射能慣れしてしまったのかもしれない。

いまだに、イスカンダルから放射能除去装置を取りに来なさいというラブレターは届かない。

ハニー・・・たまには夢に出てきてくれ