1.19.2011

目隠し撮影

スタジオマン時代、たしか1992年頃だったと記憶している。
ある大規模な写真のワークショップ に参加した。

その中で、ステージ上にてある趣向で
撮影をするということで、有志を募った。
当然、参加である。
たしか7、8人だったと思うが、
自前のカメラを持ってステージに並べられた。
そこに筋張った体をくねらせながら、時折異様な力みをしながら、
顔と股間に黒い布をまとっただけの裸の男性が現れた。
司会者の紹介によると、その方は土方巽さんのお弟子さんだった。
ウイリアムクラインの写真集「TOKYO」の中に登場するあの方である。
土方さんとうりふたつの舞踏家(顔が見えてないから似ているのである)を
撮れることになったようだった。。
大勢が見守るステージ上ということもあり少し興奮した。

しかし。。。
残念なことに名前を憶える前に目隠しをされてしまった。
暗黒舞踊家を目の前が真っ黒なカメラマンが撮るという
なんともえげつない見せ物だった。。
しかも私が手にしてるのは2眼レフ・ローライ2.8GX、
当時の愛機ではあったが、正直失敗したと思った。
撮影時間はたしか10分だったと記憶しているが、
となりの参加者のモータードライブの音にはむかついた。
念のためにブローニーフィルムはポケットに入れてあったが
さすがにローライは目をつぶってフィルムチェンジはやったことは無かった。
あっけなく撮影開始が告げられた。
瞬間的にフィルム2本、24枚撮ろうと思った。
かすかな音と気配をたよりにおそるおそる動きだした。
ほかのカメラマンと何度か接触するうちに、
不思議なことに裸体をはげしく動かす舞踏家の
うめきと気迫が感じられるようになった。
そして完全に被写体を目の前に捉えたと
感じられた瞬間に数枚シャッターを押す。
しかし舞踏家は、動きまわっている
そんな目隠し状態でも、
ローライの絞りとシャッタースピードをある程度合わせて
網膜に残っている焦点距離のダイヤルの残像と
約1メートルの最短でストップするピントダイヤルの位置から
ピントを探りながらも、
わりといけるかも、、さすが俺!などと思いながら、
「こんな見せ物とも知らず、馬鹿なカメラ持ってきちゃったね〜 」
な多くの視線を感じつつ、1本目のフィルムが終わった。

まわりでシャキーンシャキーンとシャッターを押す音が響く中、
とにかく正確にフィルムチェンジする為に、
その場に足を伸ばして尻もちをついた。
きっちり入れなければ、せっかくの貴重な撮影が半分になってしまう。
しかも気配に慣れてくることを考えれば、
2本目のほうがあたりが多い可能性も高い。
ローライ目隠しフィルムチェンジショーである。
今時ならば、だれかがYoutubeにアップしてくれて、
無様な姿を全世界にさらしてしまうところだが、
この頃は、まだそんな無粋なものはなかった。

状況が悪い時程、写真の神様は微笑んでくれるというのは、
カメラマンの良く口にする言葉だが、
状況が悪い時は、より一層注意深く被写体にアプローチするのは真理である。
無事24枚を撮り終えて、私は床に座り時間が来るのをまった。

その上がりの中から、私のデビュー時のブックに4枚入っていたが、
だれも目隠しして撮ったなどとは思わなかったはずである。

自分でも、驚いたのは、、、、
目を開けている状態と比べて、目隠しで撮っている写真が
とても似ていると感じたことだった。
もちろん使用するカメラの違いはあるにせよ、
案外、写真などというものは、
目に見えてるものを狙っているようで、実は、、
体や感覚の癖でシャッターを押しているのかもしれないと感じた。


実は、このワークショップの後半にも、あること、があった。
前もって提出してあった参加者の作品の中からセレクトされたものを、
ステージに投影してディスカッションするというもので、、
スタイルのいい女性の体を両サイドからの光のみで、
体のエッジだけが浮かび上がっている
黒バックのモノクロのヌードが映し出された。
私がナイスバディな知り合いの女性に頼みこんで撮らせて頂いた習作である。
すると某有名写真評論家と某有名美術評論家の先生方が、
なんかいろいろおっしゃって頂いたのだが、
記憶している限りでは、、
「とてもきれいなんだが、写真的にはあまり面白くない」
というような事だった。

司会者が私のところにマイクを持ってきた。
「とても参考になりました、ありがとうございます」
とか言ってほしかったんだ、とは思う。
しかし私は、渡されたマイクを持って、
壇上の先生方に、食い付いてしまった。
何を大騒ぎしたのか、あまり憶えていないのだが、
司会の方にマイクを取り上げられたのは間違いなかった。

全てのプログラムが終了して
喫煙所でタバコを吸っていたら、
壇上にいらした伊島薫さんがやってきて、
「君が発言しなかったら、つまんなかったよ〜。
言いたいこと言ってて、良かったよ!」
と声をかけて下さった。

伊島薫さんとは、あまり接点はないが、
心の戦友と勝手に思わせて頂いている。

Rolleiflex 2.8GX トライX +2